3月3日の桃の節句が終わると来年に向け、つるし飾りの制作がスタートします。どの生地を使いどの部位に使うかまで、細かい打ち合わせを行い、型紙から生地を起こし、延々と続く細かい縫製作業。1月上旬の販売を目指し、一年はあっという間です。

生地は裏打ちして強度を高めます

以前、もも屋では古布(アンティーク)の着物を京都などから仕入れ、つるし飾りを制作していましたが、どうしてもシミや生地の耐久性に問題があり、いまでは新品の産着や着物を呉服屋さんから購入した物を主に使用し、一部微細な表現で古布の表情が活きる部位のみ古布を使用しています。新品といえど、全く同じ生地が揃えられるものではありませんので、毎年、作るごとに色や柄に違いがみられます。一つ一つの美しさにこだわり、かつ吊るした時のバランスも考慮し、生地選びを行なっています。※もも屋のつるし飾りは、生地の性質に合わせ、裏面にうすい布を貼り裏打ち処理を施しています。

美しいつるし飾りは型紙から

つるし飾りは数十種類の謂れのある人形を一つ一つ作っていきます。三番叟・金目・ネズミ・七宝毬と、様々な形状の人形が存在し、その数だけ型紙が存在します。選んだ生地に型紙をあて、ハサミで切出していきます。型紙の形状と、切出した布を縫い合わせる技術により、人形の善し悪しが変わる為、最初の切出しの作業に精度がないと、いくら丁寧に縫っても良い物はできません。もも屋の型紙は、丸く、ふっくらしたシルエットになるよう、数ミリの調整を行ない現在の形に至っています。

職人の縫製技術

布の切出しが終わったら、針と糸で縫い合わせていきます。ひと針、ひと針、丁寧に縫い合わせていく事はもちろんの事、平面の生地を立体的に仕上げるには、熟練した感覚が必要となります。具体的には、直径3cmの丸く切出した生地と、一回り小さい2cmの生地の円周をぴったり縫い合わせるような技術です。下に掲載している写真の人形が、どれも同じ様に見えるのは、縫い手が丁寧な仕事をした結果です。それでも不思議と、個々で表情が違って見えるのが、つるし飾りの面白いところです。もも屋の縫い手は、経験と感覚でつるし飾りを10ヶ月かけて縫合せ、作品を完成させていきます。

謂れのある人形をバランスよく

這って歩く子をモデルにした這い子人形や、座布団や草履といった日用品、東伊豆の特産物である金目や野菜など、いろいろなモチーフが存在します。「足が丈夫に育つ様に」「風邪をひかないように」など、それぞれに子供の幸せを願う謂れがあります。 もも屋では稲取に残る古いつるし飾りを見本とし、昔から伝わる謂れのある人形のみ選出しています。そして、その一つ一つの人形を、色のバランスが整うようイメージし吊るしていきます。

美しい形

もも屋のつるし飾り(つるし雛)は、できる限り同じ形を保つよう作っています。同じ形の和菓子が並ぶ光景が美しいように、反復した形には美しさが宿ります。手作り(手縫い)といえど品質がぶれないよう、昔から続く形式を重んじて、毎年毎年、心を新たに制作に励んでおります。